- 「言った言わない」問題は個人の問題ではなく、仕組みの問題である
- 口頭やDMでの依頼は、相手に半分しか伝わっていないと考えるべき
- リモートワークの普及でチャット文化が進み、連絡のスピードは上がったが正確性は落ちた
- 解決策は「依頼フロー」を設計し、目的・期限・内容・形式を明文化すること
- 依頼フローは自己防衛の盾になるが、ハードルが高すぎると仕事が来なくなるリスクもある
- スピードより正確性を優先することで、結果的にトラブルを減らせる
「依頼したはずなのに、全然やってくれていない」「そんな話、聞いてないですよ」
こんなやり取りに、職場で何度も遭遇していませんか?
言った側は「確かに伝えたはず」と思い、聞いた側は「そんな重要な話だとは知らなかった」と感じる。この典型的なすれ違いは、あなたの職場だけの問題ではありません。どこの会社でも日常的に起きている問題です。
特にリモートワークが普及した今、スラックやチャットツールでのやり取りが増え、連絡のスピードは格段に上がりました。しかし、その反面、一つ一つの連絡の重要度が下がり、正確性は著しく落ちています。
筆者自身、事業を横断する組織で数億円規模のプロジェクトを扱う中で、この「伝わらない問題」に何度も直面してきました。そして気づいたのです。これは個人の能力や性格の問題ではなく、完全に「仕組み」の問題だと。
本記事では、「言った言わない」問題を根本から解決する「依頼フロー」の作り方と、その運用のコツについて、実体験をもとに解説していきます。
口頭・DMでの依頼が「半分しか伝わらない」理由
まず大前提として理解すべきことがあります。
口頭やダイレクトメッセージで依頼したことは、相手には半分しか伝わっていない。場合によってはゼロの可能性もある。
これを理解していない人が多すぎます。
人間は、話したことの100%を覚えている生き物ではありません。誰が何を言って、それがタスクになったのか、ならなかったのか。そんな細かいことまで、一言一句覚えているわけがないのです。
「言った」という事実は間違いではありません。しかし「聞いていない」という主張も、間違いではないのです。
聞いた側からすれば、「あ、そんなに優先度が高い話だとは思わなかった」「他のタスクに埋もれてしまった」というのが本音でしょう。だから、「あれやってくれました?」と聞かれたときに、「あれって何のことでしたっけ?」となってしまうのです。
言った側は「あいつは嘘をついている」と思うかもしれません。しかし、これは嘘でも何でもなく、単純に「伝達の仕組み」が機能していないだけなのです。
リモートワークで加速した「伝わらない問題」
今の時代、リモートワークが進み、対面でのコミュニケーションは激減しました。
その代わりに台頭したのが、スラックやラインワークス、チームズといったチャット文化です。
この変化によって、確かに情報伝達のスピードは格段に上がりました。いちいち「お世話になっております」といった堅苦しいメールを書く必要がなくなり、カジュアルな表現で気軽に連絡できるようになった。連絡のハードルが下がり、コミュニケーションの頻度は確実に増えています。
しかし、その代償として正確性は落ちました。
やり取りが増えているがゆえに、一つ一つの連絡の重要度が相対的に下がってしまったのです。スラックで「これお願いします」と送ったとしても、相手の通知欄には他の数十件のメッセージが並んでいます。その中で、あなたの依頼がどれだけ優先度高く処理されるでしょうか?
大前提として、会って話した方が早いことはたくさんあります。オンラインでも支障はないとされるものの、やはり対面でのコミュニケーションには敵いません。
特に、DMやスラックでの約束なんて、あってないようなものです。
その結果、「全然できていない」「そもそも忘れていた」といったすれ違いが多発するのです。
解決策は「依頼フロー」の設計
では、この「伝わらない問題」をどう解決するか。
答えはシンプルです。依頼のフローを設計し、明文化することです。
この問題は、個人の性格や能力、誰が嘘をついているかといった話ではありません。完全に「仕組み」の問題なのです。
仕組みで解決できる問題を、個人の努力や善意に頼ろうとするから、トラブルが発生し続けるのです。
依頼フローに含めるべき要素
依頼のテンプレートを作り、以下の要素を必ず含めるようにしましょう。
1. 依頼内容 何をしてほしいのか、具体的に記載する
2. 目的・背景 なぜこれが必要なのか、どんな背景があるのか
3. 期限 いつまでに必要なのか、明確な日時を指定する
4. 形式・フォーマット どんな形で提出してほしいのか(パワポ、エクセル、文書など)
5. 提出先 どこに、どのような方法で提出するのか
これらを明文化し、「依頼はこのフォーマットでお願いします」というルールを作る。そうすることで、約束事として機能し、記録も残ります。
もちろん、すべての依頼にこれを適用する必要はありません。後述しますが、使い分けが重要です。
依頼フローのメリット:「自己防衛の盾」になる
依頼フローを作ることの最大のメリットは、自己防衛です。
記録が残っていれば、後で「そんな話聞いていない」と責められることはありません。ちゃんと依頼を受けた証拠があるだけで、精神的な負担は大幅に減ります。
正直、面倒な確認作業にはなります。しかし、これは自分を守るための盾なのです。
特に、大きなプロジェクトや金額規模の大きい案件、複数の部署を巻き込む業務などでは、この依頼フローが絶対に必要です。
筆者の実体験をお話しします。
私は現在、事業を横断して事業を伸ばしていく組織に所属しています。数百億円規模の事業を扱っており、事業を横断した開発依頼などは、数億円規模で影響があるものばかりです。
こうした案件では、事業全体を巻き込んで動かなければなりません。依頼がバンバン来ても、正直対応しきれません。むしろ、断ることの方が多くなります。
しかし逆に言えば、本当にやってほしいもので、要件や問題点がはっきりしているもの、事業的にやる価値があるものであれば、優先的に対応すべきなのです。
だからこそ、あえて依頼フローのハードルを上げています。本気の依頼だけを受け取るためです。
依頼フローのデメリット:ハードルが高すぎると仕事が来なくなる
ただし、依頼フローには明確なデメリットもあります。
それは、依頼のハードルが高くなりすぎて、仕事を頼まれにくくなることです。
「何でもかんでも頼まれづらくなる」というのは、仕事があふれないというポジティブな面もあります。しかし、「あいつに頼んでも結局進まない」「ハードルが高くて頼みづらい」というネガティブな印象を与えてしまうリスクもあるのです。
特に、若手や中堅で「これから上がっていきたい」という気持ちがある人は、注意が必要です。
依頼フローをガチガチに固めすぎると、周囲から「仕事を受けたがらない人」と見られ、チャンスが回ってこなくなる可能性があります。
使い分けが重要
だからこそ、使い分けが重要なのです。
私の場合、先ほど述べたような大規模案件については、依頼フローを厳格に運用しています。しかし、日常的な小さな依頼や、他部署からのちょっとした相談などは、口頭でも「やっておきますよ」と気軽に受けています。
この記事で書いていることと矛盾するように感じるかもしれませんが、これが現実的な運用方法なのです。
すべてを型にはめる必要はありません。自分の役割や業務の性質に応じて、柔軟に対応することが求められます。
スピードより正確性を優先せよ
最後に、この記事の結論をお伝えします。
スピードより正確性を優先してください。
速さを求めすぎて、結果的にすべてが中途半端になるケースが多すぎます。
口頭でパッと依頼して、「あとはよろしく」で済ませる。一見スピーディーに見えますが、相手に伝わっていなければ、結局やり直しや確認作業が発生します。トータルで見れば、時間も労力も無駄になっているのです。
それであれば、最初から「一回でちゃんとしたフロー」を作り、明文化した方が、はるかに効率的です。
もちろん、すべての依頼にこれを適用する必要はありません。重要度や規模に応じて、使い分けることが大切です。
しかし、少なくとも「言った言わない」問題で悩んでいるのであれば、今すぐ依頼フローを設計することをお勧めします。
まとめ
「言った言わない」問題は、個人の能力や性格の問題ではなく、仕組みの問題です。
口頭やDMでの依頼は、どれだけ丁寧に伝えたつもりでも、相手には半分しか伝わっていないと考えるべきです。
解決策は明確です。依頼フローを設計し、目的・期限・内容・形式を明文化すること。これにより、記録が残り、自己防衛にもなります。
ただし、ハードルが高すぎると仕事が来なくなるリスクもあるため、重要度に応じた使い分けが必要です。
スピードより正確性を優先することで、結果的にトラブルが減り、効率的に仕事が進むようになります。
この記事を読んだ1人でも多くの方の「伝わらない」という悩みが1つでも減れば、筆者冥利に尽きます。最後まで見ていただき、ありがとうございました!
