- プレイヤーとして優秀すぎた人ほど、業務の引き継ぎに失敗しやすい構造的な問題がある
- 問題の本質は「後任の能力不足」でも「引き継ぎの下手さ」でもなく、あなたが異常値だったこと
- あなたが作った基準や仕組みは「強すぎるあなた専用」のものであり、後任には再現が困難
- 周囲の記憶があなたの全盛期で固定されているため、後任は常に比較され続ける
- 解決策は「基準のリセット」「後任スタイルの公式承認」「自ら距離を取る」の3つ
- 過去の自分と決別し、姿を消すことがマネジメントへ進化するための最後の通過儀礼である
「後任に引き継いだのに、なぜかうまくいっていないように見える」「自分が作った基準が、後任を苦しめている気がする」
こんな悩みを抱えながら、マネジメント業務に臨んでいませんか?せっかく優秀な後任に引き継いだのに、周囲から「前任の方が良かった」と言われる状況は、あなたにとっても後任にとっても辛いものですよね…。
しかし、この問題はあなたの引き継ぎ能力が低いわけでも、後任の能力が足りないわけでもありません。実は、あなたがプレイヤーとして優秀すぎたがゆえに起きている構造的な問題なのです。
筆者自身、入社半年で部署のトップに昇進した経験があり、まさにこの「引き継げない問題」に直面しました。自分では丁寧に引き継いだつもりなのに、なぜか後任が比較され続ける。良かれと思って助け船を出すと、かえって「やっぱり前任の方が良かった」と言われてしまう。この経験から学んだ解決策をお伝えします。
「自分が優秀だったことを誇りながら、正しく引き継ぐ方法」について、この記事では深掘りしていきます!
なぜ「強すぎるプレイヤー」は業務を引き継げないのか
問題の正体を理解する
急に役職が上がったということは、間違いなくあなたは優秀だったということです。しかし、急激に昇進するということは、あなたのやり方や立ち回り方が部署の「当たり前」になってしまっているということでもあります。
そうなると、後任への引き継ぎが思うようにいかない状況が生まれます。この問題の正体を整理すると、以下の5つの要素が絡み合っています。
1. あなた自身が異常値だった
まず認識すべきは、あなたは「普通の優秀な人」ではなく「異常値」だったということです。100人中1位や2位のレベルで結果を出していた可能性が高いのです。
2. その異常値が仕組みとして組み込まれてしまっている
あなたの異常な生産性や判断基準が、部署の標準として定着してしまっています。それは「あなたにしかできない基準」なのに、組織の仕組みとして残ってしまっているのです。
3. 周囲の記憶が最強時代のあなたで固定されている
周りの人たちの記憶は、プレイヤーとして最強だった頃のあなたで止まっています。だから、後任がどれだけ頑張っても「前任の○○さんの時は…」という比較が自動的に始まってしまうのです。
4. 後任が普通に優秀なのに比較されてしまう
後任は実際には十分優秀です。あなたから見ても「この人なら大丈夫」と思える人材のはずです。しかし、あなたという異常値と比較されるため、どうしても見劣りしてしまうのです。
5. 結果として引き継げているのに、引き継げていないように見える
実務的には問題なく引き継げているにもかかわらず、周囲の期待値があなたの全盛期に設定されているため、「引き継ぎ失敗」のように見えてしまうのです。
これは構造の問題である
重要なのは、これは後任の問題でも、あなた自身の問題でもないということです。これは構造の問題なのです。
優秀すぎるプレイヤーが作り上げた基準や仕組みが、組織に深く根付いてしまった結果、後任が苦しむ構造が出来上がってしまっているのです。
当事者が抱える悩みと苦しみ
あなた自身の葛藤
引き継げない問題に直面しているあなたは、おそらくこんな悩みを抱えているのではないでしょうか。
「後任はちゃんとやっているのに比較されてダメだと言われる」
後任は真面目に業務に取り組んでいます。あなたから見ても十分優秀です。しかし、周囲は容赦なく比較してきます。「前任の○○さんならこうしていた」「やっぱり○○さんの方が良かった」という声が聞こえてくるのです。
「自分が作った基準が、後任を苦しめている」
良かれと思って作ったマニュアルや仕組み、判断基準が、実は後任にとって高すぎるハードルになっていることに気づきます。あなたにとっては「当たり前」だったことが、実は異常に高度だったのです。
「助け船を出したつもりが、かえって悪化させる」
後任が少し苦戦しているのを見て、良心から「ちょっと手伝おうか」と声をかけたり、一部の業務を引き取ってあげたりします。しかし、それが逆効果になるのです。「やっぱり前任じゃないとダメなんだ」という空気を作ってしまい、後任の立場をさらに弱くしてしまうのです。
「自分の影がいつまでも残り続けてしまう」
マネジメント側に回ったはずなのに、あなたの存在感は消えません。プレイヤーとして残した実績が強烈すぎて、いつまでも「元プレイヤーの○○さん」として認識され続けます。
「引き継いだのに、引き継いでいないように見える」
実務的には完全に引き継ぎは終わっています。しかし、周囲の目には「まだ○○さんの影響下にある」「完全には引き継げていない」と映ってしまうのです。
これはあなたが優秀だった証拠
ここで視点を変えてほしいのですが、この問題が起きているということは、あなたがプレイヤーとして本当に優秀だった証拠なのです。
恥じることは何もありません。むしろ、誇りを持ってください。引き継ぎがうまくいかないということは、それだけあなたが異常値だったということなのですから。
問題の本質を整理すると:
- 後任が悪いわけではない(あなたから見ても優秀)
- あなたの引き継ぎが下手なわけでもない
- 問題は、あなたが強すぎたというただそれだけ
あなたが作った基準は「強すぎるあなた専用」のものです。それを後任が再現しようとして苦しんでいるだけなのです。
だから、「自分は優秀だった」と自信を持ってください。それでいいのです。実はこの問題には、ポジティブな要素しかないのです。
解決策:マネジメント側に回るための「基準のリセット」
1. 後任のスタイルを公式的に承認する
まず最初にやるべきことは、後任のスタイルを公式の場で承認することです。
これは会社によって場所が異なります。リーダー会議かもしれませんし、経営会議かもしれません。管理職が集まる場や、偉い人たちが集まる場で、はっきりと宣言するのです。
「正直、自分の色が強くなりすぎているので、今後は後任の○○さんのスタイルに完全に任せます」
この公式承認が非常に重要です。あなたの口から、公の場で、明確に宣言することで、組織全体の認識を変えていくのです。
2. 基準のリセットを自分で宣言する
次に重要なのが、基準のリセットをあなた自身が宣言することです。
例えばこんな言い方です:
「今までは良かれと思って、色々と手を出してしまっていました。しかし、後任には後任のやり方があります。Aというチームは確かに私が作ってきましたが、引き継ぐからには、私のやり方ではなく、後任の○○さんがAチームをさらに良いチームにするべきです。そして、新しい引き出しを持ってもらうために、今日から完全に私のやってきたことはリセットします。今後は○○さんのスタイルで進めてください」
このように、過去の基準を明確にリセットすることを宣言するのです。
3. 宣言したら、自ら引く
宣言したからには、実際に距離を取る行動が必要です。これが最も難しく、最も重要なポイントです。
完全に任せるなら任せる。助け船は極力こちらから出さない。もちろん、同じ会社の人間として困っていたら助けるのは当然です。しかし、以下のような行動は避けるべきです:
- かたくなにこちらからヒントを出す
- かたくなにこちらから寄り添う姿勢を見せる
- 「もっとこうやった方がいいよ」というアドバイス
- 「これは絶対やめた方がいい」という警告
良くても悪くても、基本的には相手から来たら答えるだけ。それ以上のことはやらない。このスタンスで、自らの影を消す努力をするのです。
4. 視点だけを共有する
ただし、決定はしないけれど、視点や過去の判断基準を共有することは役に立ちます。
「こうやれ」と指示するのではなく、「自分はこんなやり方をしていたよ」と情報を渡すのです。
例えば:
- 判断基準をドキュメント化したものを渡す
- スプレッドシートなどのツールをそのまま共有する
- 「これ、使う必要は全くないから、自分なりにアップデートしていいよ」と添える
教えるのではなく、使ってきたものを全部渡して、その上で引くのです。
5. 過去の自分と決別する
最後に、そして最も重要なのが、実績を残してきた過去の自分と決別することです。
「私の時代のやり方はもう古いです」
こう宣言して、信頼されてきた過去の自分から卒業するのです。これは感覚的にはとても難しいことです。なぜなら、過去のポジションにいた方が楽だからです。
そこにいれば評価されることが確定している。しかし、上に行けばまた0から信頼を築かなければならない。
これはストレスです。しかし、引き継ぐと決まっているなら、そのストレスを引き受けて、上のポジションで新たに評価される努力をするべきなのです。
プレイヤーとして最強だった人の最後の仕事
あなたの優秀さを誇ろう
ここまで読んでいただいたあなたに、改めて伝えたいことがあります。
プレイヤーとして最強だった自分を、全力で誇ってください。
引き継げないという問題が起きているということは、それだけあなたが優秀だったということです。これは紛れもない事実です。自分で自分を褒めてあげてください。
しかし、再成長を止めてはいけない
ただし、あなたの存在が組織の再成長を止めることがあってはいけません。
プレイヤーとして頂点を極めた人だけがたどり着ける壁、それが「引き継げない問題」です。
この壁を超えるためには、過去の自分の姿を消して、後任が戦いやすい状況と構造を作ることが必要です。
これが進化のための通過儀礼
プレイヤーからマネジメントへ進化するための最後の通過儀礼——それが「姿を消すこと」なのです。
ちゃんと引く。絶対にそこにしがみつかない。
正直なところ、あなたにとっては今のポジションの方が楽です。評価されているし、そこにいれば評価されることが確定しているから。
でも、一つ上に行けば、また0から信用や信頼を築かなければなりません。ストレスがかかります。
しかし、引き継ぐと決まったのなら、そのストレスを引き受けて、上のポジションでまた評価される努力をするべきなのです。
最強のプレイヤーだからこそできること
最強のプレイヤーだったあなただからこそ、この問題を正しく解決できます。
- 自分が異常値だったことを認める勇気
- 後任のために基準をリセットする決断力
- 過去の栄光にしがみつかない潔さ
これらは、並のプレイヤーには持てないものです。あなたが最強だったからこそ、正しく引き継ぎ、正しく姿を消すことができるのです。
まとめ:最強のプレイヤーは、最高の引き継ぎをして去る
プレイヤーとして強すぎた人が業務を引き継げない問題——これは、あなたが優秀だった証拠であり、恥じるべきことではありません。
しかし、組織の成長のためには、この問題を正しく解決する必要があります。
解決のステップ:
- 後任のスタイルを公式の場で承認する
- 基準のリセットを自分で宣言する
- 宣言したら実際に距離を取る
- 視点や判断基準は共有するが、決定はさせない
- 過去の自分と決別し、新しいポジションで戦う
引き継ぎがうまくいかないと感じているあなた。それは後任が悪いわけでも、あなたの引き継ぎが下手なわけでもありません。ただ、あなたが強すぎただけです。
だからこそ、自信を持って過去の自分から卒業してください。姿を消してください。そして、新しいポジションで、また0から実績を積み上げてください。
それが、プレイヤーとして頂点を極めたあなただけができる、最後の、そして最高の仕事なのです。
この記事を読んだ1人でも多くの方の悩みが1つでも減れば筆者冥利に尽きます。最後まで見ていただき、ありがとうございました!
