- 部下との会話の悩みは「仕事のミーティング」と「普段のコミュニケーション」の2つのケースに分けて考えるべき
- 1on1で話すことがないのは構造的におかしく、部下がKPI・理由・アクション・権限要求のフォーマットで報告を持ってくるのが基本
- このフォーマットにより部下の考える力が教育され、報告の精度も向上していく
- 普段のコミュニケーションでプライベートな話題はハラスメントリスクがあるため避けるべき
- 友達のような関係になると上司部下の関係が崩れ、甘えが生まれて組織運営に支障をきたすため適切な距離感が重要
役職者になったばかりの方や、部下との関わり方に悩んでいるマネジメント層の方から、「部下と何を話したらいいかわからない」という相談をよく受けます。32歳で大手ベンチャーの役職者として働く私自身も、この悩みを抱えた時期がありました。
しかし、経験を重ねる中で気づいたのは、この悩みには明確な解決策があるということです。
今回は、部下とのコミュニケーションで困っているリーダーの方に向けて、実践的な解決法をお伝えします。実際に私が現場で実践し、効果を実感しているチームビルディング手法を具体的に解説していきます。
問題を整理する:2つのケースに分けて考える
まず重要なのは、「部下と何を話したらいいかわからない」という悩みを、状況別に整理することです。
この悩みには大きく分けて2つのケースがあります。
ケース1:1on1など、仕事のミーティングの場で部下と何を話したらいいかわからない
ケース2:普段のコミュニケーションの中で何を話したらいいかわからない
それぞれのケースで対処法は全く異なります。混同してしまうと、効果的な解決策を見つけることができません。
まずはどちらのケースに当てはまるのかを明確にしましょう。
ケース1:仕事のミーティングで話すことがない問題
そもそも構造的におかしい状況を認識する
1on1や定期ミーティングで「話すことがない」と感じているとすれば、それはそもそも構造的におかしい状況です。
なぜなら、ミーティングの場では上司側が話題を持っていく必要はないからです。
基本的には、部下から上司に話す内容を持ってくるのが正しい形です。この悩みを持っているということ自体が、会議体の設計やマネジメントスタイルに問題があることを示しています。
部下が何も持ってこない場合の対処法
もし部下が報告内容を持ってこないのであれば、上司であるあなたがフォーマットを決めて、そのフォーマット通りに話す内容を考えてくるよう指示する必要があります。
これはお願いではなく、ルールとして徹底させることが重要です。
そもそも、こうしたフォーマットがない現状の方がおかしいと認識してください。これが当たり前の状態なのです。
効果的な報告フォーマット
私が実際に使用している報告フォーマットは以下の通りです:
・KPIの達成状況 現在の数値と目標に対する進捗率
・KPIの達成/未達理由 なぜ達成できたのか、できなかったのかの分析
・達成させるために今週/今月やること 具体的なアクションプラン
・権限要求 達成のために必要な権限や支援の依頼
・その他 人事関連や相談事項があれば
このフォーマットでは、基本的に仕事の数値や定量的な話をするようにしてください。
上司と部下という関係がある以上、あなたは部下を評価する立場です。定性的な立ち振る舞いや仕事への取り組み方、意欲なども評価項目ではありますが、1on1では定量・事実ベースで話すことが重要です。
フォーマット導入の効果
このフォーマットを導入することで、複数の効果が得られます。
まず、部下の考える力の教育になります。KPI、数字、自分が置かれている状況を理解させる意味で、ミーティング以上の価値があります。
私自身も、このフォーマットで上司に報告を持っていきますし、部下にも同様に持ってこさせています。
最近転職した際も、前の会社でこのフォーマットを使っていたため不安でしたが、全く問題ありませんでした。上に行けば行くほど数字で判断されることが多いので、自分の上司との会話で困ることはまずありません。
部下に対しても同じで、このフォーマットで報告が上がってくれば事実ベースで指示を出せますし、部下の達成状況やつまづいている状況も一目瞭然です。
継続による成長効果:新卒の具体例
この報告を続けていくと、部下からの報告の精度がどんどん上がっていくことも実感できるでしょう。
私は新卒にもこのフォーマットを徹底させたことがあるのですが、3ヶ月くらいでKPIがどうこう、達成してないからあれをやりたい、これをやりたいなどちゃんと権限を要求してくるようになり、非常に感銘を受けたことがあります。新卒だから、KPIと言っても売り上げとかではなくSNSのフォロワーとかそういったレベルなのですが、これが売り上げに変わったところで項目が変わるだけなので身についたものはそのまま使えます。
やってはいけないミーティングの進め方
逆に、以下のような進め方は避けるべきです:
NGパターン1:雑談で時間を潰す 「最近どう?」「忙しい?」などの曖昧な質問で時間を消費する
NGパターン2:上司が一方的に話す 部下の状況を把握せずに、指示や説教を続ける
NGパターン3:感情論に終始する 「やる気を見せて」「もっと頑張って」などの精神論
NGパターン4:愚痴の聞き役になる 会社や他部署への不満を聞くだけの時間になる
このように、1on1などのミーティングの場では、フォーマットをルール化して、部下から必ず報告を持ってこさせるようにしましょう。
ケース2:普段のコミュニケーションの問題
無理にコミュニケーションを取る必要はない
結論から言うと、普段から無理にコミュニケーションを取る必要はありません。
あくまで仕事のつながりですから、「プライベートは最近どう?」「仕事の状況はどう?」など、あなたから無理して話題を作る必要はないのです。
コミュニケーションを取ること自体がダメだとは思いませんし、社風や関係値によってはコミュニケーションが活発な職場もあるでしょう。
しかし、今悩んでいるように、コミュニケーションがそもそも少なく、それで困っているような状況であれば、いっそ割り切って無理をする必要はないと考えています。
プライベートな話題のリスク
まず、プライベートなことは、関係値が構築されていない段階では、セクハラやパワハラなどのセンシティブな問題に発展しがちです。
「休みの日に何をした?」程度であれば大丈夫だろうと思っていても、それを聞かれることが嫌だという人もいるわけです。
実際に、厚生労働省の調査によると、職場でのハラスメント相談の約25%が「不適切な個人的質問」に関するものです。
そもそもコミュニケーションがない状況で急に聞く必要もないですし、リスクの方が大きいのです。
上司と部下の関係が長くなれば、自然と信頼関係が構築されてそうした話題が出てくるでしょう。無理に0を50に飛び級させる必要はありません。
仕事の悩みを聞くリスクと具体例
「最近仕事はどう?」といった質問も実はリスキーです。
結局、部下の仕事の悩みを聞き始めると、会社への不平不満しか出てきません。
具体的なリスクケース:
ケース1:給与への不満 「同期と比べて給与が低い」→上司には解決できない問題
ケース2:会社の方針への批判 「新しいシステムが使いにくい」→愚痴の聞き役になるだけ
ケース3:他部署への不満 「営業部が無茶な要求をしてくる」→社内政治に巻き込まれる
これを理解することも大事という意見もあるかもしれませんが、理解したところで、あなたが会社を変えられるでしょうか?
創業社長なら可能かもしれませんが、多くの場合は困難です。
友達関係になるリスクの実例
さらに問題なのは、会社の不平不満にあなたも共感しながら聞いてしまうことです。
確かに距離は縮まるかもしれませんが、部下はあなたのことを上司ではなく、同じ悩みに共感してくれる人として認識するようになります。
実際に起きた失敗例: 私の前任者のB課長は、部下との距離を縮めようと積極的に飲み会を開催し、会社への愚痴を聞いていました。
結果として、部下からは「B課長なら分かってくれる」と甘えが生まれ、締切を守らない、指示に従わないといった問題が多発。最終的にB課長は別部署への異動となりました。
上司と部下という関係は名ばかりな存在になってしまうのです。
コミュニケーションは取れているように思えても、友達のような関係になってしまい、甘えが出てきます。強く言えなくなり、新しい悩みが生まれるだけで、また苦しむことになります。
だからこそ、一定の距離を保つことが重要であり、意外に仕事がスムーズに進むきっかけだったりするのです。
実践的な距離の保ち方
実際に私も、特別な機会がない限り部下と飲みに行かない、プライベートで関わらない、職場でも極力プライベートな話題はこちらからは避けるということを徹底していました。
具体的な実践方法:
朝の挨拶: 「おはようございます。今日もよろしくお願いします」(天気の話などはしない)
廊下で会った時: 「お疲れ様です」(「忙しそうですね」などの感想は言わない)
退社時: 「お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」(残業の有無などは聞かない)
こんなことを書くと鉄仮面のような人物を想像されるかもしれませんが、いつも朝礼でボケているくらいの人間です。
つまり、親しみやすさと適切な距離感は両立できるということです。
やってはいけない普段のコミュニケーション
以下のような話題は避けるべきです:
NGワード集:
- 「彼女(彼氏)はいるの?」
- 「どこに住んでるの?」
- 「休みの日は何してるの?」
- 「給料どのくらいもらってるの?」
- 「転職考えてる?」
- 「うちの会社ってどう思う?」
これらの質問は、良かれと思って聞いても、相手にとっては負担になる可能性が高いのです。
組織の治安維持効果
この方針により、友達感覚で接してくる部下もいませんし、ハラスメントとは無縁で、何より上司と部下という関係がしっかり保たれます。
ある意味、組織の治安維持とも言えるでしょう。
まとめ:効果的なマネジメント戦略
部下とのコミュニケーションで悩んでいる役職者の方は、まず自分がどちらのケースに当てはまるかを明確にしましょう。
仕事のミーティングで話すことがない場合は、フォーマットを導入して部下からの報告を構造化することが解決策です。
普段のコミュニケーションで悩んでいる場合は、無理をせず適切な距離感を保つことが重要です。
どちらの場合も、役職者としての立場を理解し、組織全体の効率性と健全性を考慮した判断が求められます。
一時的な人間関係の改善よりも、長期的な組織運営の観点から最適な選択をすることが、真の意味での優秀なリーダーへの道筋なのです。
この記事を読んだ1人でも多くの方が、部下とのコミュニケーションに関する悩みから解放され、より効果的なチームマネジメントができるようになり、日々の業務における悩みが1つでも減れば筆者冥利に尽きます。
最後まで見ていただき、ありがとうございました!