- 負け癖とは「負けることに違和感がなくなる状態」で、放置すると組織を静かに腐らせる最も危険な要因
- プロスポーツでも優勝候補チームが下位に沈むのは、戦力不足より「勝ちへの執着」を失うことが原因
- 「勝つのが当たり前」という空気が組織を引き締め、個人の成長と組織の好循環を生み出す
- 筆者の実体験では、目標をあえて下げて「表向きの目標」と「裏目標」を分けることで、3ヶ月連続達成を実現
- 一度勝ち癖がつくと、目標未達でも「最後まで戦う」姿勢が継続し、組織文化が劇的に変わる
- 危機感を感じたら待たずに行動し、小さな勝利を重ねて空気を変えていくことが唯一の解決策
「また今月も未達成か」「まあ、仕方ないよね」
そんな言葉が飛び交う職場で働いていませんか?最初は悔しかったはずなのに、いつの間にか目標を達成できないことが「普通」になってしまった。そして気がつくと、あなた自身も「どうせ無理だろう」と思うようになっている。
もしそうなら、あなたの職場は「負け癖」がついてしまった状態です。そしてこの負け癖こそが、個人のモチベーションを奪い、組織全体を静かに腐らせていく最も危険な要因なのです。
負け癖が怖いのは、「負けることが当たり前」になること
負け癖とは、単純に「負けた」という結果のことではありません。負けることに違和感がなくなる状態のことです。
負け癖がついた組織の特徴
達成できなくても平気、目標に届かなくても仕方ない、本気でやらなくても誰も指摘しない。そんな空気が組織に蔓延すると、緊張感も集中力も落ち、「普通にやってても負ける組織」に変質していきます。
やばいのは「負けたこと」ではなく、「負けに慣れたこと」なのです。
一度負け癖がついてしまうと、負けることが当たり前になり、負けることに対して違和感もなくなるので日常になります。口では「やばい」と言うけれど、心の底では「まあ、いつものことだし」という諦めが支配している状態です。
これはプロの世界でも同じ——スポーツチームから学ぶ組織論
この現象は、プロ中のプロが集まるようなスポーツチームでもよく起こることです。どんなに実力者が揃っていて、シーズンが始まる前は優勝候補なんて言われるチームが低い順位に沈むことは、プロ野球でもよくあることです。
野球なら年間140試合程度あるので、怪我人が出たり、調子が悪かったり、いろんな要素が噛み合うことも確かですが、この負け癖みたいなものが十分関係していると私は見ています。
一方で、優勝争いをしているチームには覇気があり、個人の成績が良い人もたくさんいる傾向にあります。多くの人は「個人の成績が良いから優勝争いをしている」と考えがちですが、私はその逆だと思っています。
チームが優勝争いをすることで、勝つか負けるかのヒリヒリ感が緊張感を高め、負けることに違和感しかないから、集中力や緊張感が年間通して保たれ、個人の成績がよくなる。その結果、チームも強いという好循環が生まれるのです。
会社も同じ——個人のパフォーマンスと組織の成長は連動する
会社も同じです。会社が悪いから負け癖がついているのではなく、個人のパフォーマンスを上げないことには会社も良くならないし、伸びているという成長感は得られないものです。
「勝つのが当たり前」「負けたら違和感」という空気が組織を引き締め、個人の成長にもつながります。実際に、Googleが4年間をかけて実施した「プロジェクト・アリストテレス」の研究では、心理的安全性の高いチーム(つまり勝ち癖のあるチーム)は収益性が2倍高く、マネジャーから評価される機会も2倍多いことが実証されています※1。
そのためには、まず負け癖を取り除くことが急務なのです。
参考文献 ※1 Google re:Work「効果的なチームとは何かを知る」
筆者の実体験——「意図的に勝つ日」を作る戦略
私の会社では、本当はやりたくなかったのですが、2年間も月次の売り上げ達成ができていない状況が続いていました。社員全体が諦めムードで、戦う姿勢すら見られない状況でした。
そこで、社長や役員に相談して、会社の売り上げ目標をあえて下げてもらうことを打診しました。私も含めた管理職・経営陣だけが追う本当の目標(裏目標)と、社員向けに発表する達成可能レベルの目標を設定したのです。
目標設定の二重構造
- 表向きの目標:社員が達成可能なレベルに設定
- 裏目標:管理職・経営陣が追う本来の目標として上位に保持
社員向けの目標を下げたので、当たり前のように達成する日がちらほら生まれます。すると、月末に「この調子だと98%なので、あと2%埋めるために○○やらせてください!」「前半10日終わった時点で着地が80%見込みなので後半キャンペーンやらないと今月まじでやばいです」といった声が上がるようになったのです。
勝ち癖がつきはじめると、組織はこう変わる
もちろん、目標を下げたことは本望ではないし、低い目標の中でやっていることは100%良い状況とは会社視点から見ると言えません。しかし、しっかり戦ってくれる人は確実に増えたし、負けが当たり前ではなくなりました。すなわち負け癖を取り除く施策としては大的中でした。
この後3ヶ月くらい連続で売り上げを達成することになるのですが、4ヶ月目に少し目標を上げた後も、3ヶ月間で負け癖がなくなったので、目標を達成していないことに違和感を感じるようになりました。4ヶ月目は売り上げを達成できなかったけど最後まで戦ってくれました。そして5ヶ月目も同じように戦える組織として高い目標に対してアクションを起こしていったのです。
達成できなかった月でも「悔しい」と感じるようになれば、それはもう勝ち癖の兆しです。
「本当の目標」と「チームの目標」を使い分ける戦略
やったのは目標を少し下げて、勝ちの日をあえて作っただけです。それにより負け癖から脱し、負けることが当たり前ではない組織に生まれ変わりました。
表向きの目標は達成できるラインに設定し、裏目標(管理職や経営陣が追う本来の目標)は上位に保持する。この二重構造が、心理的安全性と緊張感の両立を可能にしたのです。
これは理想論ではありません。実行するにはトップの理解と意図的な設計が必要ですが、「戦える空気」を取り戻したいなら、これくらいの覚悟が要るのです。
負け癖に気づいたら、まず動ける人からアクションを
この経験から、まず負け癖をなくすための努力をどんな形でもいいので、危機感を感じる人はやるべきだと確信しています。
あなたが危機感を持っているなら、待たずに動くべきです。一度崩れた組織文化は自然に戻りません。小さな戦い、小さな勝利を重ねて、空気を変えていくしかないのです。
立場別のアクション例
役職者の場合:部署レベルでも同じ手法を使えます。チーム目標を現実的なラインに設定し、まず「勝てる体験」を積み重ねる。
個人レベルの場合:自分の業務目標を細分化し、達成可能な小さな目標をクリアしていく感覚を取り戻すことから始められます。
最後に——勝ち癖は行動によって取り戻せる
勝つのが当たり前だった職場が、いつの間にか「負けても何も感じない職場」になっていた。でもそれに違和感を覚えたあなたの感覚は、正しいのです。
だからこそ今、意図的に「勝つ日」を作ることが大事なんです。負け癖は、放っておけば定着します。でも勝ち癖は、行動によって取り戻せるものです。
組織の空気を変えるのは簡単ではありません。しかし、誰かが最初の一歩を踏み出さなければ、現状は変わりません。あなたがその一歩を踏み出す人になってみませんか?
小さな勝利から始まる組織変革——それが、負け癖から抜け出す唯一の方法なのです。
この記事を読んだ1人でも多くの方が、負け癖から抜け出すきっかけを掴み、職場でのモチベーション低下という悩みが1つでも減れば筆者冥利に尽きます。最後まで見ていただき、ありがとうございました!