- 多くの人は「できる」の基準を高く設定しすぎているが、実際の業務レベルはそこまで高くない
- 新しい業務を任されても、最初から完璧なレベルを求められることはほとんどない
- 20時間程度あれば「なんとなくはできる」ようになるのが現実
- 器用貧乏でも幅広い経験は転職市場で高く評価される
- 「できないことをやらない」より「できないことでもやってみる」方が得しかない
会社で突然新しい業務を任されたとき、「これは自分にはできない」と最初から諦めていませんか?32歳で大手ベンチャーの役職者として働く私が、これまでの経験を通じて強く感じるのは、多くの人が「できる」の基準を高く設定しすぎているということです。
「できる」の基準を勘違いしていませんか?
新人や未経験者が新たな業務に不安を感じるのは当然のことです。実際、厚生労働省の調査によると、現在の仕事や職業生活に関する強い不安やストレスを感じている労働者の割合は82.7%に上ります。多くの人が職場で何らかの悩みを抱えているのが現実なのです。
例えば、デザインの経験がないのにデザイナー業務を任されたとします。多くの人は「デザイナーとして独立できるレベル」や「その道のプロとして食べていけるレベル」を「できる」の基準として考えがちです。しかし、実際に会社で求められるレベルは、そこまで高くないケースがほとんどなのです。
デザイン未経験の人が、いきなり会社の核となる売れ筋商品のパッケージデザインを一から作るよう求められることは、まずありません。おそらく最初は、広告バナーのテキスト変更、背景色の調整、画像のリサイズといった基本的な作業からスタートするはずです。
プロの目から見れば「素人に毛が生えた程度」かもしれませんが、未経験者の視点では、画像編集ツールを使って何かを作っている時点で「デザイナー職を全うしている」と言えるでしょう。そして実際に、それで十分「できる」の領域に達しているのです。
0か100かではなく、成長は一歩ずつ
ところが、新しい業務を任されると、なぜか自分の思い込みで「完璧なレベル」を目指そうとしてしまいがちです。成長は0から1、1から2へと段階的に進むものです。100点を目指すのではなく、昨年の自分、1ヶ月前の自分と比較して、どれくらいできるようになったかを基準にすると、心が軽くなります。
実は、できる人や器用な人ほど、この事実を知っています。彼らは「とりあえずやってみる」ことが多いのです。人間は実際にやってみると、慣れの問題で意外にできてしまうものです。全員がその道のプロとして独立できるレベルまで求められているわけではありません。そんなレベルに到達するのは、ほんの一握りの人だけです。
20時間の法則が教えてくれること
能力開発には興味深い法則があります:
- 20時間の法則:サクッとできるようになる
- 1000時間の法則:中上級者、セミプロレベルになる
- 1万時間の法則:その道の一流の人になる
この「20時間の法則」は作家のジョシュ・カウフマン氏が提唱したもので、TEDxでの講演は1900万回以上再生されている人気の理論です。1万時間の法則がプロレベルになるまでの時間を示しているのに対し、20時間の法則は「そこそこできるようになる」までの時間を指しています。意外にも、20時間程度あれば「なんとなくはできる」ようになるものです。この事実を知っているだけで、新しいことに取り組む心理的ハードルが下がります。
転職市場でも、スキル不足への不安を抱える人は多く、転職活動に関する調査では55.5%の人が「転職活動をうまくやれるかどうか不安」と回答しています。しかし、新しいスキルは思っているより短時間で身につけられるのです。
実体験から学んだ「やってみる」の価値
私自身の経験を振り返ると、フリーランス時代は外注費がなかったため、デザインも自分で手がけました。ベンチャー企業では人手不足から、知識がないままアプリ開発のディレクションを担当しました。サイト制作、Web広告全般、SNS広告運用、SEO、通販のリピート施策、新規獲得施策、LINE運用など、専門知識がない状態で始めたものばかりです。
プロのレベルには到底及びませんが、「できない状態」から「頼まれた業務をこなせる状態」になることは可能でした。その筋のプロから見れば素人レベルでも、器用貧乏と言われようとも、Web関連の仕事なら「なんとなくは理解できる」状態になれたのです。
転職市場で見えた「幅広い経験」への評価
この経験が最も活かされたのは転職活動でした。職務履歴書に書けることが豊富にあり、様々なポジションや抽象度の高い新規事業の管理者・責任者といった役職で高い評価を得ることができました。
実際、面接で募集ポジションはもちろんのこと、「この経験なら、新たに立ち上がる○○事業の方の採用も~」なんて話に発展することが多々ありました。選択肢の幅が広がり、転職しようと決めてから1ヶ月も経たずに次の会社が決まりました。
入社後は新しく立ち上がる部署に配属され、3ヶ月程度で役職者まで昇進することができました。結果として年収も300万円アップし、幅広いスキルを身につけていたことが、キャリアと収入の両面で大きなリターンをもたらしてくれたのです。
サラリーマンレベルで求められるのは「プロ」ではない
これは私個人の成功体験に過ぎませんが、重要なのは「できないことをできないとやらない」より、「できないことでもやってみる」方が得しかないということです。その筋のプロレベルまで達しなくても、十分に価値があるのです。
そして、ある意味悲しい現実として、一般的なサラリーマンレベルでプロレベルの仕事を求められることは少ないのが実情です。もちろん、その道で食べていこうと決めたなら、プライベートを捧げてでもプロを目指すべきです。それは否定しませんし、むしろ推奨します。
今日から始められる「できない」からの脱却
新しい業務を任されたとき、まず考えるべきは「完璧にできるかどうか」ではなく、「今の自分より一歩進むことができるか」です。画像編集ツールを触ったことがないなら、まずは基本的な操作を覚える。プログラミングが未経験なら、簡単な修正作業から始める。
「できない」という思い込みは、実は自分で作り上げた壁に過ぎません。その壁を取り払い、一歩踏み出すことで、想像以上に多くのことができるようになります。そして、その小さな積み重ねが、キャリアの選択肢を大きく広げてくれるのです。
完璧を目指すのではなく、昨日の自分を超えることから始めませんか?20時間という短い時間で、あなたの「できない」は「できる」に変わるかもしれません。
この記事を読んだ1人でも多くの方が、「できない」という思い込みを捨てて新しいことにチャレンジし、キャリアの選択肢を広げることで、職場での悩みが1つでも減れば筆者冥利に尽きます。最後まで見ていただき、ありがとうございました!